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獺祭の記事~東洋経済オンライン

獺祭(だっさい)はすごくおいしいお酒なのだが、杜氏が居ないと云うのは凄いなぁ。 むかし、セキに聞いた気もするがw
やっぱり、最終的にはリーダーの強い意志、実行力(リーダーシップってやつ)がないと、ちゃんと進んで行かないよね。 やりようはあるってことさ。

以下、リンク付きで東洋経済オンライン殿の記事を転載させて頂く。 当たり前だが、記事が無くなってしまうと読み直せないので、そのための控えだ。 ありがたや。


杜氏のいない「獺祭」、非常識経営の秘密
データ分析による集団体制で日本酒を造る
平尾喜昭、山田裕嗣 :サイカ代表取締役 2014年07月13日

 データ分析は「儲かる」のかーー?
 これだけデータが注目される今日において、この問いに「No」と答えるわけにはいかない。しかし、必ずしも「Yes」と答えられるわけでもなく、「やり方次第でYesにもNoにもなる」としか答えようがないことがほとんどではないだろうか。
 では、データはどのように活用すれば「儲かる」、つまりはビジネスとして成果を生み出すのか?クラウド型の統計分析ツールxica adelieを提供する株式会社サイカが、さまざまなビジネスの現場でデータを活用するプロフェッショナルへのインタビューを通じて、その「可能性」や「限界」はどこにあるのかを探って行く。
 今回は、「杜氏がいない」「徹底したデータ管理」「年間を通じた酒造り」という体制で、銘酒「獺祭」を造っている山口県岩国市の旭酒造を率いる桜井博志社長にお話を伺う。

――酒造りの中で、データをどのように活用していますか。

 酒造りは、伝統的に杜氏という職人文化によって支えられてきました。獺祭では杜氏がいない体制で酒造りをしており、優秀な杜氏がやっていたことを集団でやろうとしています。その中で、さまざまな形で酒造りの中でデータによる管理を行っています。

 具体例を挙げると、洗米という米を水洗いする行程では、米の重量、洗う時間、水温などをすべて数値で計測し、米に吸収される水分量を0.2%以下の精度で調整できるようにしています。その日の気温によって少しずつ状況は変わりますので、数値を記録しながらその日に最適な条件にできるようにしています。

 ほかにも、醗酵の期間中には、さまざまなデータ(アルコール度数、日本酒度、糖度など)を毎日計測し、それをすべて手書きでグラフにしています。毎日、その日に記録したデータから醗酵の進み方を分析して、次の日の温度管理などを判断しています。獺祭では年間に900本という非常に多い本数の仕込みを行っていますので、繰り返しやっている中で「理想的な数値」がわかってきました。

 今のような造り方は1999年の冬の造りから始めて、最初の3年ぐらいでだいたいの形ができ上がりました。伝統的に杜氏がしてきた酒の分析やデータ解析を、社長である自分がやるようにしました。しかし、社長の自分がずっとやるわけにいかない。そこで、3年目にパートの女性をひとり入れて、データの解析をその女性にお願いしたときから、今の形ができあがりました。

 ただし、酒造りは最後の最後まで、すべてを見通せるわけではない。今の技術でできることはすべて分析し、今日までの数値はわかったとしても、明日どうなるかはわかりません。それが限界です。自分たちにはそれがわかっていない、ということをわかっていないと困る。データを使って最後は人が判断をしないといけません。判断しやすくするためにデータは必要ですが。

欧米と日本、酒造りに対する違い

――どれだけデータにしても、最後は「人」が判断しないとわからない。

 たとえば昔、発酵中の醪(もろみ)から取り出した発酵ガスを冷やして液体にすると、吟醸酒の香りと同じ成分が採れると言われました。数値にすると確かに同じかもしれませんが、われわれがそれを見るとやはりまったく違うものでした。機械的に言うと、1+1=2、という発想になるかもしれませんが、発酵の現場ではこれは通用しないんですよね。

 酒造りは、タンクの中で糖化(米を溶かしてブドウ糖にする)と発酵(ブドウ糖酵母がついてアルコールになる)が一緒に走っています。だから非常に難しいし、明日がどうなるかなんてわからない。

 欧米の文明はどうしたかというと、たとえばビールでは糖化と発酵を分けて、数値化できる=明日の判断ができるものにした。じゃあワインはどうかというと、最初からブラックボックス化して、どこまでも「ロマンの世界」にもっていって付加価値をどーんとつけた。

 そう考えると、酒というのは日本的な感覚でできあがっているな、と思います。欧米の文明は数値化をできるまで作り方を変えるか、それともそれはあきらめてふたをしてロマンの世界にもっていった。日本文化は、杜氏という専門家の文化を創ることで、その難しさと向き合って行った。優秀な杜氏は、決してすべてが経験や勘ではなくて、頭の中に数値があってそれで判断ができていたのだと思います。繰り返しになりますが、獺祭の酒造りは、その優秀な杜氏がやっていたことを、集団でやろうとしているのです。

 100人いたら90人は「データでわかること」を基に、1+1=2と素直に理解して実践してくれればいいのです。そのうえで残り10人ほどのリーダーになる人が、「数字ではわからないことがある」ということをきちんと理解して指導や判断をしないといけない。

 先ほどの話のとおり、酒造りは今日までのことがどれだけデータでわかっても、明日どうなるかを最後の最後まで見通すことはできません。それがわかっていないと納得のできる酒造りを続けられない。判断をできるリーダーがひとりの会社は弱いし、10人いればこれは強いですよね。獺祭では、酒造りの行程をなるべくデータで分析することで、そういう酒造りを目指しています。

――「経営者」の立場では、データをどのように活かしていますか。

 経営者としては、会計的な数値などデータを見て判断することはもちろん大事です。ただし、企業がある程度伸びて行くためには、危ない橋を渡らないといけない。健全企業で、投資も安全な水準、人件費も原材料費も安全な水準、であったら、いずれ安楽死すると思います。どこかでバランスを崩したところがないと無理だと思う。そのときは「わからないけどやるしかない」し、それ以上に経営者としての「やりたい」という意思や欲望ようなものが強くなければ、勤まらないのではないでしょうか。

 私はユダヤ教ではないですが、先日、伺ったユダヤの教えというのが面白いと思いました。ユダヤの教えの中では、最後に「神の目から見てこれが正しいか」で判断するという教えがあるそうです。ここで言っていることは、「社会に対する視点があるか」ということだと思いますが、経営者にはこの視点が大事なのだということだと思っています。

 たとえば、獺祭はメルセデスベンツのファッションウィーク東京の公式スポンサーになっています。獺祭以外はメイベリンニューヨークやDHLなど、企業規模で考えたら明らかにケタが違う。これをなぜ受けたかというと、ひとつには、お酒とファッションは「必要のないものだけど人生に潤いを与える」という意味で、非常に親和性があると思ったこと。もうひとつは、主催者から話を聞いたときに、ここでうちが出なかったら、何十年経っても日本酒業界にはもうどこにもいかないだろうと思ったからです。

 また、東北の大震災の後、1年間は売り上げの1%を寄付しました。翌年は特別なお酒を造って、その売り上げをすべてそのまま寄付しました。今年からは、二割三分という主力商品について、1升瓶100円、4号瓶50円を東北の震災孤児の就学支援に出しています。しかし、私自身が街頭に立って募金をお手伝いするかというと、それはちょっと違う。私たちは、企業の生業を持って社会に貢献すればいいと思っている。獺祭という会社が、酒を造ることによって地域や社会にお返しできるものがあるんじゃないか、というのが大きい。ユダヤの教えはこういうことを言っているのだろうなと思っています。

100%勝たなくていい。70%の勝率で万々

――そうした判断をする際、データはどれくらい「使える」のでしょうか。

 状況を把握できるという意味で、数字は非常に大事だと思います。言うのが恥ずかしいような話ですが、獺祭がうまく行くようになったのは、Excelが使えるようになったというのも大きい。Excelがあれば、会社の決算とかいろいろな状況が自分でわかりますよね。それも瞬時に。これが手計算で自分でやっていた頃は、数字が悪くなるとイヤになって途中でやめてしまっていました。

 経営の判断には絶対に1円も間違わないソフトよりも、少々違っても瞬時にわかるほうが状況判断にすごく役立ちますよね。数値でわかるものは全部把握できているという安心感があれば、数字ではわからない領域にも思い切って踏み込めます。

 経営の現場は、甲子園でトーナメントやっているわけではないので、100%勝つ必要はない。70%くらい勝つことができれば万々歳。あとは、負けるときに徹底的な負けをしないことや、負けがわかったときに、とにかく逃げるのを早くすること。そのためには、今の経営の状況をわかっていることが大事です。

――データが“儲かる”、要は成果につながるために必要なことは何でしょうか。

 データを成果につなげる大事なポイントは「意思」でだと思いますよ。先ほどは「欲望」とも言いましたが、つまりは経営者がやろうとする思いを持っていること。その思いが、決して社会に対する視点を失っていないこと、また社員に対して不利益をもたらさないことが重要です。

 決して社員に不利益なことをしない、という行動を続けていくことができれば、社長が少々無理な判断をして飛ぶときでも、社員がついてきてくれる。社長が自分たちを見捨ててとんでもないところにいくのではなくて、それをちゃんと考えてやってくれている、と思ってもらえます。だから、いろいろな冒険をできるのです。