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乗り越えた者と弱い者

 これは一面的な、偏狭な価値観の考え方の人間の言い分だと思う。
 だが、どこかで線を引く以上、「それら」は相容れない。
 あるいは界面が曖昧になるかもしれないものの、やはり相反するのだと思う。

 さて、俺は石川啄木が大嫌いだ。
 弱っちぃ、グズグズした根性が気に食わないからだ。
 文学作品だなンだと国語の時間に習うわけだが、そのジメジメした負け犬根性、貧乏を呪ってうめく様が若い俺を苛立たせた。 今に至るも虫酸が走る。
 ただ、齢を重ね、判る様にはなった。
 彼も強くなりたかったのだろう、もがいたりしたのだろう、ということが。
 だが、彼の残した言葉は、それでも弱っちいままでいる奴の怨嗟や負け惜しみにしか聞こえない。

 そして尾崎豊
 大変著名なシンガーソングライターであるが、俺は好きではない。 やはり、嫌いだ。
 啄木と同じ匂いがする。
 たしかに美しいメロディーラインの楽曲があり、それは素晴らしいのだが、歌詞の内容がどれも不愉快なのだ。 最たるものはこれである;
「窃盗したバイクで夜中走る」
 バカじゃないのか? 死ねよ。
 貴様ら自身のどうしようもなさを、犯罪行為で紛らわせるというのは、ただの逃げ、現実逃避でしかない。 だいたい窃盗は許されない振る舞いである。
 犯罪行為を助長、惹起せしめかねない文言が含まれる楽曲が、なぜ頒布されうるのか? レコード会社の責任者を逮捕しろ。
 無論、「どうしようもなさ」「遣る瀬無さ」があるのは判る。 そンなのは生きてりゃ当然だよ。
 だが、それはそういう犯罪行為では解決しない。 キチンと教育を受けていないから、訓練されていないから、こういう方向に逃げるのだろうな。
 甘ったれるンじゃねぇよ。

 要するに、尾崎某の歌詞も、石川啄木の作品も、俺にはとっては同じに思える。 甘ったれて逃げている連中の妄言にしか聞こえない。
 確かに今では判る、文学や芸術の一分野としてこういうのがある、ということが。
 そして、強くなりたくて、なれなかった連中がいるということが。
 彼らも何かを言いたかった、ということが。

 だが、俺は彼らの意見をアタマでは理解しても、やはり受け入れることはない。
 俺は弱くて、強くなりたかった者、そしていくばくかは強くなった者だ。
 それはちっぽけな強さであるが、確かな何か、だ。 修練を経て、何かを掴ンだという自信、自負がある。 それが生きていくための根拠になっており、ありがたいことだと思う。
 そしてこれまた年を経て、それは誰しもに可能なことではない、ということも(寂しいことだが)理解する様になった(強くなれない者がいることを理解したのだ)。
 それでも、そういう連中の言葉を聞きたとは思えない。
 弱いなら弱いままでいい。 だが主張するなよ、と思う。

 ここで突然話が飛ぶ。
 米津玄師というシンガーソングライターが人気を集めている。
 俺はファンになっている。 珍しいことだ。
 俺は音曲にあまり馴染みがないのだが、彼の曲、歌詞は胸を打つものがあり、今年の後半は彼の楽曲と多くの時間を過ごした。 一つには、彼は日本語を大事にした歌詞が多いことが理由だと思うが、新しくも懐かしいメロディーラインがスッと入ってくるのが快い(彼は大変な数の試作をした様で、まさに蓄積の成果であろう)。 彼がここに至るのに、どれだけ努力したか、を見るべきだ。
 さて最近、彼の新曲がリリースされた。 そのTeenage Riotという楽曲に俺は衝撃を受けた。 本当に衝撃であり、そして大変気持ちが良かった。
 …俺は今だに中二病に罹患していることを自覚している。 そして俺の中二病的解釈もまた、一面的なものに過ぎないことも理解している。

 歌詞にある通り、ちっぽけなことで、誰も興味を持たないだろうけど、確かな手応えを得て、明日に踏み出す。
 この日こそ、自分で自覚して、目覚めた新たな誕生日なのだ。
 だからBirthday Song。
 自分を茶化してバカにしてきたのは親か、学校か、同級生か。
 そういった自分を囲む存在に対して反逆する。 自分はそういうものと対峙していく、もう流されたり押されたりない。
 自分を否定する者たちが居ても、自分の魂の強さを信じて立ち上がる、立ち上がれるのだ。
 高らかな反逆の狼煙だ。
 会いたい「あなた」は必ずしも具体的な誰かじゃない。 人ですらないかもしれない。 だけど、それに向かって進むことができるのだ、進みたいのだ。

 …全く中二的解釈だ。
 ただ、こう解釈することができて、俺は嬉しかった。
 彼も自分を取り囲むものに悩まされ、だがそれらと向かい合い、乗り越えていく、対決していくことができる様になったのだ。 この歌詞はそれを高らかに歌い上げている。
 これが、弱いままグズグズ言っている連中との決定的な差なのだ。

 年若いとはいえ偉大なアーティストにこういう表現をするのは失礼だが、俺は彼に強いシンパシーを感じた。
 誰だって「遣る瀬無さ」があると上に書いたが、彼もそれに煩悶し、そして乗り越えた、少なくとも折り合いをつけることができたのだと思う。

#壁に穴を開けるのはモチロンよろしくない振る舞いだ。 まぁ程度問題だけど、これくらいはお目こぼししよう(笑)

 まぁ、長々と書いたが、そういうことだ。
 弱いままグズグズ言っていて、
「その弱さを認めてください」
「弱いままでもお目こぼししてください」
 等とホザイているのは見苦しい。
 ちっぽけでもいいさ、何かを掴むために立ち上がって進め。 そして実際に掴め。
 それを糧に、自信にして世界と向き合え。
 俺はそういう考えで、これからもそう生きていく。

(以下、歌詞引用)
潮溜まりで 野たれ死ぬんだ 勇ましい 背伸びの果ての面相 
ワゴンで2足 半額のコンバース 
トワイライト 匂い出すメロディー 
今サイコロ振るように 日々を生きて ニタニタ笑う 意味はあるか 
誰も興味が無い そのGコードを 君は酷く 愛していたんだ 
煩わしい心すら いつかは全て 灰になるのなら その花弁を瓶に 詰め込んで火を放て 
今ここで 
誰より強く願えば そのまま遠く 雷鳴に飛び込んで
歌えるさ カスみたいな だけど確かな Birthday birthday song

染みっ垂れた 面が似合うダークホース 不貞腐れて 開けた壁の穴 
あの時言えなかった3文字 
ブラスバンド鳴らし出すメロディー 
真面目でもないのに 賢しい顔で ニヒリスト気取って包み 
誰も聞いちゃいない そのBコードを それでもただ信じていたんだ 
よーいドンで 鳴る銃の音を いつの間にか 聴き逃していた 
地獄の奥底に タッチして走り出せ 
今すぐに
誰より 一人でいるなら 誰より誰かに届く歌を 
歌えるさ間の抜けた だけど確かな Birthday birthday song 

持て余して放り出した 叫び声は取るに足らない 言葉ばかりが 並ぶ蚤の市に また並んでいく
茶化されて 汚されて恥辱の果て 辿り着いた 場所は何処だ 
何度だって歌ってしまうよ 何処にも行けないんだと 
だからこそあなたに 会いたいんだと 
今 今 今 

煩わしい心すら いつかは全て 灰になるのなら その花弁を瓶に 詰め込んで火を放て 
今ここで
誰より 強く願えば そのまま遠く 雷鳴に飛び込んで 
歌えるさカスみたいな だけど確かな Birthday birthday song