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「統計学が最強の学問である」

なんともキャッチーなタイトルの本であるが、興味をそそられて購読した。
なかなか面白い本で、ちょっと刺激を受けた。 当然やろ、という内容も勿論あるが、モヤモヤしていた部分をクリアにしてくれて、腑に落ちた処が多く、勉強になった。
ビッグデータ解析云々などといっても、どういうふうに解析させるか、を指示するのは人間様なわけであり、ようするに統計リテラシーがなければ「ふ~ん」で終ってしまう。

さて筆者の若い学者は人気者らしく、インタビューがネットにあるのでメモとしてクリップしておく。 雑誌社側が適当に編集しているのがミエミエだが、まぁ情報の一つさ。

統計学が最強著者 がん5年生存率をどう捉えるべきかを解説

2013.04.27 07:00

 近年、日常生活の中で莫大なデータと統計数字に裏打ちされた確率が多く示されるようになった。中でも生死を分ける「がんの生存率」や「余命宣告」はどのくらい正確なのかと疑問を持っている人も多いはず。累計25万部のベストセラー『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)の著者である西内啓氏に、医学における統計学の必要性について聞いてみた。

 * * *
――西内さんといえば、東京大学医学部の出身。医師になる夢を持っていたのですか。

西内:私は医学部の中でも医者になるコースではありません。どちらかというと自分は統計学を勉強したいという思いが先にあり、応用分野のひとつとして医学部の中にある「生物統計学」の専攻を選びました。
――そこで、医学的な知識を統計学に活かして、社会全体を健康にしようという道に進まれたのですね。
西内:生物医学と呼ばれる分野は、例えば体の中の細胞は100人見ても同じ形ですし、心臓に血が流れているのも誰でも分かる。でも、細かい仕組みが分かったからといって、人間の体がすべてコントロールできるわけではありません。

 薬が理論上効くはずでも、効能を打ち消すような働きが人体の中に存在する場合もあります。重症ながん患者でも医学で証明できない奇跡の回復をする人だっていますよね。ですが、この患者には助かる確率がより高まる“有利な賭け”に舵を切っていくことができれば、もっと救われる人が増えると思いました。

――がんでは既に生存率など統計学が用いられています。

西内:「5年生存率」なんて言葉がよく使われますが、例えば5年生存率30%と言われた患者や家族がただショックを受けるだけなら、その情報にあまり意味がありません。大事なのは治療法(手術、放射線抗がん剤など)ごとの生存率を比較して有利な賭けを選ぶこと。それに、生きるか死ぬかというだけでなく、症状や副作用の重さなどのトレードオフを考慮することもとても重要です。そうすることで医師の勘と実際のデータや自分の価値観を照らし合わせてどんな治療法を選ぶのかが、とても大切になってきます。

――昔に比べればがん治療もかなり進み、副作用のデータなども次第に揃っているのではないですか?

西内:そうなのですが、次に必要なのは医師たち、あるいは患者となる私たち自身がデータの読み解き方を理解しなければならないこと。欧米では早い段階から重視されてきた「EBM(根拠にもとづいた医療)」という表現が日本の公的な資料に登場したのは1999年度から。じつは、たかだか10年ちょっとしか経っていないんです。まだ医学界の大物の中にも、「なんかよく分からないけど、世間がうるさいから従うか」と、EBMをあまり理解していない医師がいるのも事実です。

――なぜ、日本の医学に統計学が重視されてこなかったのでしょうか。

西内:医学の流れには19世紀から脈々と続くドイツとイギリスの医学があります。ドイツ医学が上げた最も大きな成果は、細菌学者のロベルト・コッホが「すべての病気には百発百中で分かる原因がある」と、感染症の病原体を証明するための基本指針を提唱したことです。日本陸軍の軍医だった文豪の森鴎外がドイツに留学していたのも有名な話ですよね。

 一方、イギリス医学はもう少しマクロに病気を見ようという考え方が強い。コレラの原因や感染経路を特定したジョン・スノウは、統計学的に病気の原因を探る疫学という手法を医療にもたらしました。イギリス医学の影響が強かったアメリカでも、1980年代からメジャーな医学雑誌の中で根拠に基づく医療が広がり始めてきました。

 日本はどちらかというとドイツ型に近い考え方といえますが、統計学を医療分野に活かす手法は、欧米諸国と比べて少し遅れているかもしれません。今後は体と精神の両面から総合的な健康増進や予防に努めるパブリックヘルス(公衆衛生学)の研究もますます重要になってくると思います。

【プロフィール】
西内啓(にしうち・ひろむ):1981年生まれ。東京大学医学部卒業(生物統計学専攻)。その後、同大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教や大学病院医療情報研究ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員などを歴任。現在、調査・分析などのコンサルティング業務に従事している。


入社試験のSPI 有能な人材取りこぼすとベストセラー統計家

2013.04.30 07:00

 新入社員や異動組がそれぞれの部署に配属され、仕事が回り出す時期。決まって人事部から聞こえてくる話題は、「今年の学生はここが足りない」「このメンバーで営業効率が上がるのか」といった不平不満だ。しかし、そもそも企業の採用基準や上司・部下のマッチングがうまく機能していたのか。『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)の著者である西内啓氏が、統計学を活用できない日本企業の盲点を鋭く突く。

 * * *
――企業の採用試験でよくSPI(適性検査)が使われますが、一般教養が広く大切か、得意分野でズバ抜けた才能が必要かは常に問われるところです。

西内:言語能力や数学能力を広く評価して、何となくSPIの点数が高いことが採用基準になったりしますよね。確かに一般的知能はすべての値と相関するはずなので、押し並べて高得点なら知能指数も高いとは言えますが、それは非常にもったいないやり方です。
 数のセンスは要らないけれど言語能力が求められる仕事だったり、一般教養がなくても体で覚えれば活躍できる仕事だってたくさんあります。いろんな仕事や従業員の多様性を考慮しないで採用してしまうと、本当に力を発揮する必要な人材を取りこぼすことになるのです。
――志望学生と会社が欲しい人材のマッチングがうまく行われていない気がします。

西内:日本人はもっと統計学の知恵をうまく使えばいいと思います。例えば子供のころにやった知能検査。日本で主流になっているビネー式は、フランスのアルフレッド・ビネーらによって開発された発達遅滞児の診断法が基になっています。その後、統計学的な検討もされていますが、そもそも知性とは何かという定義が用いようとする目的に合っているのかどうか。

 心理統計学の領域において知性の定義にもさまざまなものがありますが、その中で特にどのような種類の知性が求められているのかは、業務の内容や環境によっても変わってきます。これは知性だけに限った話ではなく、例えば上司のリーダーシップなどについても、絶対的な正解があるわけではなく、状況や部下との相性などで有効なものが変わるということも統計学的な実証がなされていたりもします。

 決まりきった作業をするのに強いリーダーシップはいりません。むしろ重要なのは、感情面でのサポート、つまり優しくフレンドリーな上司のほうが生産性が上がるという結果が示されています。一方、抽象度の高い仕事が求められる部下は最初何をやっていいのかすら分かりません。そういった場合、リーダーがきっちりラインを引いて、一人ひとりに明確な役割を与えたほうが生産性は高まるそうです。

――西内さんは小売業界などに統計学を用いた経営コンサルもしていますが、それが浸透すれば、人材の有効活用も含めて経営効率は上がってくるのでしょうか。
西内:皆さんがもっと統計学リテラシーを持てば、産業自体は活性化します。アメリカのビジネススクールで絶対に教える日本語がひとつだけあります。それはトヨタ生産方式として知られる「カイゼン(KAIZEN)」です。

 もともと「改善」とは、戦後、アメリカが日本に送り込んだ経営学者であり統計学者のW・エドワーズ・デミングが、工場の生産プロセス、つまり数値と取って変化を見て改善点をみなで議論しなさいと指導した手法です。デミングはもともとアメリカ国内で強い影響力を持っていたわけではなかったのですが、日本でその考え方があまりにも成功したために、アメリカの製造業も遅れてキャッチアップしてきた歴史があります。

――日本ではかなり改善活動も進んでいるように見えますが、もっと統計学をビジネスに応用しなければ生産性は上がらないと?
西内: 改善や「見える化」の比較がまだ不十分だと感じます。儲かっているときとそうでないときの違いは何なのか。売り上げを上げるセールススタッフと上げないスタッフはどこが違うのか。その比較ができていないので次のステップにいけません。

 例えば、タイプ別の顧客を何十人かずつ掴まえてくれば、そのうち何パーセントが、平均いくらの売り上げにつながったのかといったデータは取れるでしょう。すると、顧客リストをもっと増やすという仕事に対してどれだけの利益が見込めてどれだけのコストをかけられるのか、またどのようなタイプの顧客にフォーカスすべきなのかが見えて、意思決定がしやすくなると思います。

【プロフィール】
西内啓(にしうち・ひろむ):1981年生まれ。東京大学医学部卒業(生物統計学専攻)。その後、同大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教やダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員などを歴任。現在、調査・分析などのコンサルティング業務に従事している。著書の『統計学は最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)は発行部数25万部を超えるベストセラーに。